旅・レジャー

2008.11.20
忙しい毎日を過ごしていると、ふと、どこかへ旅したくなる瞬間がある。心がほっこり温まるような、しみじみとした幸福感を得られる旅。それなら、目的地までひとっとびの飛行機ではなく、列車がいい。車窓を眺め、「今、旅をしている」と実感できる贅沢な時間を過ごしたい。
そんな旅にぴたりとはまる響きを持っているのが、お座敷列車だ。お座敷列車とは、通常の鉄道車両とは異なる、特別な内装を持った列車のこと。ホームから足を踏み入れるまでは通常の電車に見えるが、車両に入れば、そこは広い畳敷きの"座敷"。イグサの匂いを感じられる座敷には、掘りごたつ席が用意されていたり、ちょっとした宴会に利用することもできたりする、まるで旅館の1室のようなしつらえだ。そこには、電車に乗っていることを忘れてしまうかのような非日常の空間が広がっている。
折しも冬は、お座敷列車の醍醐味を味わい尽くせるまたとない季節。車輪の音に耳を傾け、掘りごたつでぬくぬくと温まりながら、流れる車窓を見よう。まるで自宅で寛いでいる時のようにリラックスした気分のまま旅は進み、景色に感じ入る――。旅情をくすぐる、どこか懐かしい雰囲気に満ちたお座敷列車に乗って、旅に出かけてみてはいかがだろうか。
岩手県の東西南北をつなぐ三陸鉄道では、季節ごとに趣を凝らした列車旅の企画を提案している。中でも特に評判が高いのが、毎年恒例の冬の「こたつ列車」だ。
全席が掘りごたつ仕様となっている列車に乗ると、見えてくるのは深い緑の山々のトンネルを抜けるたびに視界に飛び込んでくる、神秘的な空と海の青のグラデーション。断崖絶壁、猛々しく複雑な岩を越えながらの海岸線を走る間中は、時を忘れて車窓にかぶりついてしまう。自然が織り成す圧倒的な景観美は、まるで次々と見せ付けられる美術品のようだ。
北リアス線の久慈~宮古駅間を走る15駅を通過する間は、約90分。道中で特に見逃せないのは、安家川と沢川の河口にかかる鉄橋からの雄大な太平洋の眺めだ。景色のよい場所では、時折スピードを落として外を見るのに充分な時間を演出してくれる。
列車独特のリズムに揺られていると、不思議なことに徐々に緊張が溶け、まるで家に居る時のような"寛ぎ度"が増していく。暖かい社内で、みかんやお煎餅を片手に、のんびり他愛もない会話をして過ごすという、この上なく贅沢な時間の使い方をしてみるのもいいだろう。もし雪が降れば、しんと静まる世界をひた走る車窓から見える、美しい三陸の雪景色が待っている。列車旅の醍醐味である駅弁を、こたつの中でじっくり堪能するシーンを想像するだけでも、心は充分に温まる。
基本的にお座敷列車は、駅で乗車券を買って直ぐ乗れるのではなく、1年に数回しか運行しないケースも多いので、時刻表に載ることがない。JRの駅や旅行会社が募集する団体ツアーなどの催しがあれば、少人数で利用することもできるので、利用を検討してみるのがいいだろう。多くの魅力が詰まったお座敷列車でぜひ、これまでには体験したことのないであろう、ほのぼのとした時間を過ごしてみてほしい。
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