旅・レジャー

2008.09.18
日本は火山の国である。元来、「温泉」は世界のさまざまな国に存在するが、日本ほど多種多様な温泉を見られる国は他にはない。火山大国と呼ばれ、豊かな水資源を誇る日本。温泉を楽しむ旅が今も昔も変わらず人々に親しまれ続けているのは、このような恵まれた自然環境があったからこそだと言えるだろう。
温泉の泉質は、「単純温泉」、「塩化物泉」、「硫酸塩泉」、「酸性泉」、「放射能泉」など、さまざまなタイプに分類することができる。だが、効能にばかりこだわるのは、野暮というものだ。肌をさらりと撫でる風と、ゆらめく湯気。かけ湯でじんと痺れるように熱い湯に、ゆっくりと体を慣らしていく。肩まですっかり浸かって腰を落ち着ければ、思わず僥倖(ぎょうこう)の息が漏れる。
ひと時、全てを忘れてしまおう。我々疲れた現代人の心身に真に必要なのは、湯の成分の知識ではなく、このひと時の「癒し」なのだ。
旅に必要なのは、癒しだけではなく、純粋なる「楽しみ」、大切な人と感動を分かち合う「心の交流」もまた同様だ。人気の温泉地には一通り訪れたことがある、と豪語しても、覚えているのは温泉の名前だけ...ということはないだろうか?大切なのは、ブランドだけではない。その時味わった驚きや癒し、感動といった「忘れがたい体験との出会い」がそこになくては、旅は味気なく、寂しいものだ。
名湯めぐりでの貴重な体験も捨てがたいが、時には変わった趣のある温泉を探して、驚きや感動を味わってみたい。そこで登場するのが、"季節や天候によって色が変わる"または"時間によって色が変わる"などと言われている温泉だ。
これらの湯は、同じ温泉なのに、入る時のタイミングによって湯の色が透明であったり、乳白色であったり、翡翠(ひすい)色であったりと、変幻自在に変わっていく。まるでこちらを惑わすような変化に、思わず湯に浸かるのをためらうかもしれないが、タネ明かしをすれば、温泉に含まれる特有成分が、空気や温度の変化によって反応し、色が変わっているのだ。仕組みが分かれば「なんだ」と落ち着くだろうが、こんな驚きも、旅にはいいスパイスになるだろう。
このような温泉は意外に多くの場所に見つけることができる。自宅から行きやすい場所にこういった温泉がないか、探してみるのも一つの手だ。長湯を楽しみながら、刻々と変化する湯色を観察してみるというのも、温泉での贅沢な過ごし方の一つかもしれない。
最後に、ぜひ訪れてほしい温泉をひとつご紹介しよう。北海道帯広市近郊の十勝川温泉、またはドイツ南西地方のバーデンバーデンにしかないという、世界的にも大変希少な「モール温泉」だ。
モール温泉とは、太古の時代の植物が堆積してできた亜炭層から湧出する温泉である。植物性の有機物が多く溶け込んでいるため、深い艶のある琥珀のような湯色をしており、肌への感触もとろりと滑らかだ。一般的な鉱物性の温泉に比べると、天然の保湿成分の含有量が多いというが、一度体験すれば誰もがきっと「なるほど」と頷くことだろう。
気の遠くなるような、膨大な年月をかけて地表に姿を現した、遥かなる記憶。これほどにロマンを感じさせる温泉はそう簡単には見つからないだろう。日本に住んでいるからには、一生に一度は訪れてみたい温泉だ。いつか訪れるその日のために、モール温泉への旅を思い描くだけでも、心豊かな気分に浸ることにしよう。