旅・レジャー

2009.06.11
東京都江東区・亀戸。JR総武線の沿線に位置するこの街は、土地の名を冠した亀戸駅を中心に、日々多くの人で賑わいを見せています。現在は高層ビルや大型ショッピングモールなどが立ち並び、すっかり開けた「街」ですが、この街の歴史はなかなかに古く、江戸時代にまで遡ることができると言われています。
江戸時代、この辺りには広大な農地が広がっていたという記録があります。江戸野菜とも呼ばれる小ぶりな大根(亀戸大根)が盛んに栽培される耕地が多い場所でしたが、菅原道真の末裔である菅原大鳥居信祐公(すがわらおおとりいのぶすけ)が、各地を巡り歩いた後にこの地にたどり着き、天神信仰を広めたことで「亀戸天神社」が建立されました。
これによって、江戸近郊の小さな集落だった亀戸は、参拝目的の民衆が集う行楽の地へと、変貌を遂げたと言われています。
亀戸天神社といえば、春は梅花に藤の花、秋には菊花が咲き誇り、現在でも多くの人々に愛される神社として知られていますが、「七福神」めぐりが楽しめるという点でも大いに有名です。
七福神めぐりとは、7つの災いを除き、代わって7つの幸福をもたらしてくれる神々を巡拝し、福運を祈る行事のこと。そのルーツにはさまざまな説がありますが、一般的には、徳川家康に仕えた天海僧正が、七福神を祀れば「七難即滅・七福即生」のご利益があると語ったことにより、全国各地の民衆の間で篤く信仰されるようになったと考えられています。
七福神が叶えてくれる7つの幸福は「延命長寿」、「芸道富有」、「愛敬富財」、「有富蓄財」、「勇気授福」、「人望福徳」、「清簾度量」。この信仰は、時代が明治、大正、昭和へと移り変わっていく中でも廃れることはなく、人々の生活に根付いたものとなりました。
亀戸の七福神めぐりは、戦災により中断していた時期があったものの、昭和53年に復活。現在も多くの人が福をもとめて各神社を巡り歩く姿を見ることができます。
お正月には、縁起のよい亀の甲羅に乗った七福神の絵合わせができるという特別な楽しみ方ができるので特に人出が増えますが、賑やかな商店街が立ち並ぶ亀戸なら、お正月シーズンでなくとも大いに街歩きを楽しめるはず。
休日の昼下がり、足の向くままに散策しながら、遠い昔から伝わるこの"7つの福めぐり"をしてみてはいかがでしょうか。
ひとしきり亀戸の町を散策したら、この土地ならではのお土産を探しに出かけてみましょう。亀戸が誇る名物には、七福神めぐりと同じ江戸時代からの歴史を持つ、伝統工芸品「江戸切子」があります。
この江戸切子とは、江戸末期に始まったカットグラス工法を今に残す工芸品で、昭和60年に東京都の伝統工芸品産業に、また平成14年には国の伝統工芸品にも指定されました。
深く鮮明なカットと華やかな輝きは非常に美しく、昔ながらのレトロな雰囲気をまといながらもどこかモダンなその趣きは、現代でも多くの人々を魅了しつづけています。
江戸切子の文様は、「菊」や「麻の葉」など、自然界に存在する身近なものがモチーフになっています。とはいえ、その繊細な形にはそこはかとない高級感が漂っているので、手が届かないものと感じてしまう方もいるかもしれません。
しかし、江戸切子はその発祥当時、一世を風靡した町人文化のひとつ。江戸っ子たちはこの粋な江戸切子を、毎日の暮らしの友としていたのです。
その美しさを見ると、やはり扱い方は慎重になりますが、神経質になりすぎるのは野暮かもしれません。ぐい呑みやビールグラス、ワイングラスといった、毎日の食卓ですぐ使えそうなものから、一輪挿しや花瓶といった、生活を豊かに彩ってくれるものまで、江戸切子の器は今日、実にバリエーション豊かになっています。美しいガラス工芸として愛でるだけでなく、気軽に使える「普段使いの器」として取り入れ、江戸っ子気分を味わってみるのも、また「粋」ではないでしょうか。
また、亀戸とそのお隣の町である錦糸町(きんしちょう)には、江戸切子の専門店や博物館があります。
もし散策の途中で店を見かけるようなことがあったら、生の江戸切子を実際に手にとって、江戸の町民文化に触れてみてください。よく見れば、先ほど例に挙げた「菊」や「麻の葉」以外にも、「魚子」(ななこ)、「六角籠目」(ろっかくかごめ)、「八角籠目」(はっかくかごめ)、「矢来」、「七宝」、「星」など、さまざまなカット技法にも出会えることでしょう。
江戸から現代まで、土地に脈々と受け継がれてきた匠の技を感じつつ、その個性あふれる輝きに、ぜひ心をときめかせてみてください。