趣味・教養

2010.04.15
フランスの思想家ヴォルテールの原作『カンディード或は楽天主義説』をベースに、世界的な指揮者兼作曲家レナード・バーンスタインが構成したミュージカル『キャンディード』。クラシックの土壌から生まれた複層的な楽曲の数々が、主人公の冒険譚をあざやかに彩る傑作ミュージカルだ。今回は日本演劇界の金字塔『レ・ミゼラブル』の演出で知られる演出家ジョン・ケアードが、99年にロンドンで上演した新バージョン。日本での初上演となることはもちろん、バーンスタイン財団に申し出た上で自ら原作に忠実に脚色を施したという、ケアードならではの着眼点に注目だ。

舞台は近世のヨーロッパ。城に住む無垢な青年キャンディード(井上芳雄)は、哲学教師バングロス(市村正親)の「この世に起こることは全て最善に仕組まれている」という言葉を信じ、幸せな毎日を送っていた。そんなある日、男爵令嬢のクネゴンデ(新妻聖子)と恋に落ちたキャンディードは、彼女の両親に反対されて城から追放されてしまう。それでもバングロスの言葉を信じて放浪の旅に出たキャンディードは、渡り歩いた国々で悲惨な目に遭い続ける。戦争や大地震、宗教裁判に嵐、詐欺と、キャンディードはあらゆる苦難に対峙して"現実"を知り始める。さらに「この世は暗黒で、善などない」と言い切るマーティン(村井国夫)を目の当たりにし、キャンディードの心はある方向へと......。
物語のキーパーソンであるバングロスと、狂言回しの役どころでストーリーを引っ張るヴォルテール(原作者)の2役には市村正親。「バーンスタインの曲は『ウェスト・サイド・ストーリー』以来」(製作発表にて)という市村が、難曲ぞろいの本作にどう挑むのか見ものだ。また「純白」の意味をもつキャンディード役の井上芳雄は、東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業後、ミュージカルの世界で活躍中の"ミュージカル界のプリンス"。一見ハマり役だが、それだけでは核心を表現し得ないのが本作の難しいところ。井上がどんなキャンディードを伝えてくれるかに注目したい。また、最近グンと演技に深みが増した新妻聖子がクネゴンデを演じるほか、市村と真逆の立ち場からキャンディードに関わるマーティンに村井国夫、クネゴンデの兄マキシミリアンに坂元健児と、いずれもケアードの信頼する実力派がそろった。
バーンスタインは、弾圧を受けながらも大衆の支持を得た原作に、赤狩り関連で迫害された自身の過去を重ね合わせたという。初演(56年)の興行的失敗にも関わらず、33年後の89年に改訂を行い、コンサート形式で上演したという事実はその意欲の表れといえるだろう。世界がどんなに悲惨で残酷でも、仕事やお金を失い惨めな姿になっても、キャンディードは前進してゆく。その姿には未曾有の不況の中で過ごす我々にもある感慨を与えてくれるはずだ。寓話的な展開ながら、現実の自分を振り返る試金石ともなる『キャンディード』。その意味でも、本作は永遠の傑作なのだ。
| 日程・会場 | 6月2日(水)~27日(日) 帝国劇場(東京都) ※6月1日(火)公開舞台稽古公演あり |
| 演出・台本改訂 | ジョン・ケアード |
| 原案・原作 | ヴォルテール |
| 劇作・脚本 | ヒュー・ホイラー |
| 作曲・歌詞補作 | レナード・バーンスタイン |
| 作詞 | リチャード・ウィルバー |
| 歌詞補作 | スティーブン・ソンドハイム/ジョン・ラトゥーシュ/リリアン・ヘルマン/ドロシー・パーカー |
| 翻訳 | 吉田美枝 |
| 訳詞 | 松田直行 |
| 出演 | 市村正親/井上芳雄/新妻聖子/坂元健児/村井国夫/ 阿知波悟美/安崎求/須藤香菜/駒田一/他 |