趣味・教養

2010.01.15
ラテンアメリカ文学を代表する作家マヌエル・プイグのベストセラーを戯曲化、リアリティあふれるテーマで今も世界中で上演されているミュージカル『蜘蛛女のキス』。『キャバレー』『シカゴ』などの作詞作曲を手掛けたヒットメイカー、ジョン・カンダー&フレッド・エッブのコンビによる名曲の数々で、93年のトニー賞では7部門を受賞した名作だ。今回は07年に荻田浩一の新解釈で上演、話題を呼んだ舞台の再演となる。

物語は南米のとある刑務所で展開する。ファシズムが支配するこの国で、若き政治犯ヴァレンティン(浦井健治)は、ゲイのモリーナ(石井一孝)と同室になる。価値観が異なる2人は苛立ちつつ対立するが、ギリギリの状態を分かち合ううち、次第に互いの生き方を認めるように。モリーナは大好きな映画の記憶をヴァレンティンに話すことで、ヴァレンティンもこれまで無縁だった映画の話を聞くことで、わずかに人間らしい感情をつなぎとめる。だがモリーナはある日、刑務所長(今井朋彦)から仮出獄と引き換えのある条件を持ちかけられてしまう。いつしか現実と非現実が重なり合うなか、モリーナ憧れの映画スター"オーロラ/蜘蛛女(金志賢)"が2人の人生を妖しく繰っていき...。
映画と演劇の膨大な知識を有し、実際にチネチッタやハリウッドというそれぞれの聖地で学んだ経験もあるプイグ。本作でも、視覚的・音楽的に交差する彼独特の世界観が魅力だ。特に"蜘蛛女"の存在は男たちの運命を彩る闇の象徴でもあり、ぐいぐいと観客を引き込んでゆく。今回、初演に続いて演出を担当する荻田浩一は、元宝塚歌劇団に所属していた人気演出家。鮮やかな視覚効果と高い文学性を兼ね備えるだけに、ブロードウェイ版とは一味違った舞台構成が楽しめそうだ。
安っぽい恋愛ではなく、人間同士の愛で互いの存在を認め合ってゆく男たち。まずヴァレンティン役に挑むのは、ミュージカル界のプリンス浦井健治。06年には同じ荻田演出の『アルジャーノンに花束を』ほかで菊田一夫演劇賞を受賞しており、その相性は折り紙つき。骨太な政治活動家姿に注目だ。一方のモリーナ役にはベテラン石井一孝。ゲイならではの明るさと人間的な深みが共存するモリーナを的確に演じてくれるはず。また蜘蛛女役の金志賢(キム・ジーヒョン)は、元劇団四季の実力と、特徴のある歌声で近年引っ張りだこの女優。この3人ががっぷり組んでの舞台は、緊迫感溢れるものとなるに違いない。
明るいイメージのミュージカルとは異なり、観終わった後に重いものが心に残る本作。だがその重さは、名作だけがもたらしてくれる感銘でもある。本作が今も世界中で愛されている理由を、ぜひその目で確かめて欲しい。
| 日程・会場 | 1月16日(土)~18日(月) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪) 1月24日(日)~2月7日(日) 東京芸術劇場 中ホール(東京) |
| 原作 | マヌエル・プイグ |
| 脚本 | テレンス・マクナリー |
| 翻訳・演出 | 荻田浩一 |
| 作詞・作曲 | ジョン・カンダー/フレッド・エッブ |
| 出演 | 石井一孝/金志賢/浦井健治/初風諄/今井朋彦/朝澄けい/縄田晋/ひのあらた/田村雄一/照井裕隆/笹木重人/長内正樹/辻本知彦 |