趣味・教養

2007.10.25

『花咲かじじい』は日本五大昔ばなしのひとつで、誰もが知っているポピュラーなお話。昔ばなしの典型ともいえる、良いおじいさんとその隣に住む悪い おじいさんが登場します。この話のように勤勉で心がけの良い者が成功し、怠惰で欲深な者が真似て失敗する展開は、“隣の爺型”と呼ばれますが、『こぶとり じいさん』をはじめ日本にはこのタイプの話がたくさんあります。

ところが、日本に近い韓国や東アジアでは善良な弟と性悪な兄の“兄弟葛藤譚”が多く、“隣の爺型”の話はほとんど聞かれないそうです。実は“隣の爺 型”は、世界の昔話の中で日本だけに特徴的な物語様式。韓国の文学者は、「韓国では長子相続における財産の分配が社会的な問題であり、日本は隣を意識する 文化であるせいではないか」と説明しています。当たり前のように読んでいた昔ばなしも、その奥にある文化や歴史を踏まえて読み返すと新たな発見があります ね。

『つる女房』は、助けた鶴がその恩を返すために人間の姿になってやってくるというお話。「おじいさんとおばあさんの娘になる」というパターンと、「青年の嫁になる」というパターンのふた通りあり、前者が『鶴の恩返し』、後者が『つる女房』と呼ばれています。
『つる女房』のように、昔ばなしには動物との婚姻を描いた話が多くあり、“異類婚姻譚”と呼ばれています。動物は人間に姿を変えて表れますが、実は 西洋にはこの種のおとぎ話はあまり見られないそうです。たしかに、ヨーロッパにおける動物が人間に変身する話は、『美女と野獣』やグリム童話の『カエルの 王さま』などほんの数例。しかもそのほとんどは魔女などにより魔法の力で動物の姿にされていた人間が元の姿に戻るという設定です。

これは、その根底にキリスト教があるヨーロッパとの文化の違いが原因だと考えられます。日本の昔ばなしにおいて、動物が魔法の力無しで変身できるの は、古代の日本人にとって動物は神様であったからでしょう。それゆえ、神聖な神様の正体を見てしまうことはタブーであり、違反者は神様に見捨てられるとい う考えから『つる女房』のような話が生まれたのかもしれません。

『つる女房』のように、人間に助けられた動物が恩返しをするという話で有名なのが『浦島太郎』。異類の者と結婚し、「決して見るな」と言われたタブーを犯してしまうというところも同じです。
『浦島太郎』の話の起源はかなり古く、初めて書物に書かれたのは『日本書紀』で、これが原形であるといわれています。現存はしませんが『丹後国風土記』等で一部を読むことができます。

ところで、『丹後国風土記』に書かれている主人公の名前は、“浦島太郎”ではなく“浦嶋子”。“浦島太郎”という名前になったのは、江戸の御伽草子 版の『浦島太郎』以降からで、内容も現在とはだいぶ異なります。『丹後国風土記』では、浦嶋子は漁師ではなく有力な豪族とされています。また、「いじめら れていた亀を助けて、お礼に竜宮城に連れていってもらう」という部分にも違いがあります。『丹後国風土記』には、釣りをしてた浦嶋子は不思議な亀に出会 い、その亀が美しい女性に変身して浦嶋子に求愛したと書かれているのです。この女性は亀姫という名の仙女で、浦嶋子を蓬莱山という神仙境に連れていき、ふ たりは夫婦として暮らします。

亀姫が仙女であることなどから、この話は中国の神仙思想に影響を受けて書かれたといわれていて、実際、中国にはこれとそっくりの話があるそうです。 では、なぜ現在のようなお話になったのでしょう? それは明治36年、小学校低学年の国語の教科書に、浦島太郎のお話が使われたのがきっかけのよう。子供 に読ませるために分かりやすく、そして道徳的にとまとめたのが、私たちの知っている『浦島太郎』なのです。
貧乏で優しい若者が亀を助け、お礼に竜宮城に連れていってもらう話に改変し、動物愛護と「いいことをすれば良いことがある」という教訓に。そして、 「開けてはいけない」と言われた玉手箱を開けてお爺さんになってしまったのは、「約束を破ると罰が当たる」からというわけです。結果、随分変わってしまっ た『浦島太郎』ですが、どこか幻想的なラブストーリーである元のお話もなかなかおもしろいと思いませんか?
絵本などで一般的に伝わっている『こぶとりじいさん』の話では、おじいさんは雨宿りに入った木のうろの中で鬼たちの宴会に出会います。ところが、 「昔ばなしシリーズ」の切手に描かれているのは、木のうろでなく神殿の鳥居。これは原画を担当した片岡球子さんが、岩手県北上市に伝わる話をモチーフにし たため。また、北上市版『こぶとりじいさん』では、鬼たちの宴会の場面に天狗が登場するのも大きな違いです。
この切手に描かれているパターン以外にも全国に伝わる話には、隣の翁のほうが踊りがうまい、隣の翁に瘤がな い、隣の翁が瘤を取ってもらう事に成功する、踊りではなく魚釣りの技を鬼に披露など、さまざまなバージョンが。あなたの地元にも、ちょっと変わったお話が 伝わっているかもしれません。一度調べてみてはいかがですか?