趣味・教養

2007.09.27
子どもの頃に歌った歌や親がよく口ずさんでいた歌を、ふとした瞬間に思い出すことがあります。そんなとき、胸に広がるのは故郷の風景や幼い頃の思い出。童謡や唱歌には、四季の情景やふるさとの景色を歌ったものが多く、それが余計に懐かしさを誘うのかもしれません。
今回は、そんな懐かしい唱歌をテーマにした切手をピックアップ。歌が作られた背景や歴史とともにご紹介します。取り 上げる「日本の歌」シリーズ切手は、1979~1981年にかけて全9集、18種類が発行されました。すべての切手に、歌の出だしワンフレーズの楽譜が歌 詞とともにデザインされています。

原画:森田曠平
[日本の歌4集「さくらさくら」]
春といえば桜。日本最古の歌集である『万葉集』にも桜を詠んだ歌があるほど、日本人になじみが深い花です。現在でも、童謡・唱歌からヒットチャート をにぎわすポップソングにいたるまで、桜をテーマにした歌はたくさんあります。そのなかでも、『さくらさくら』は誰でも一度は歌った覚えがあるのでは? この歌は、幕末、江戸で子供用の箏の手ほどき曲として作られたもの。それが明治時代以降に歌として広まり、現在の歌詞がつけられたそうです。
その歌詞ですが、実は2通りあるということをご存じですか?
昔から歌われていた歌詞は、「さくらさくら/やよいの空は/見わたす限り/かすみか雲か/匂いぞ出ずる/いざやいざや/見にゆかん」。
そして、昭和16年に改められた歌詞が、「さくらさくら/野山も里も/見わたす限り/かすみか雲か/朝日ににおう/さくらさくら/花ざかり」。

原画:村上勉
[日本の歌9集「春がきた」]

原画:林静一
[日本の歌9集「花」]
現在音楽の教科書等に載っているのは、後者が主流のようです。さて、あなたが覚えているのはどちらですか?

原画:安野光雅
[日本の歌6集「夏の思い出」]

原画:谷内六郎
[日本の歌5集「うみ」]
高温多湿の日本の夏。すこしでも涼しい場所へ行って暑さをやり過したいものですね。
名曲『夏の思い出』に「夏がくれば思い出す/はるかな尾瀬/遠い空」と歌われる尾瀬も、避暑地として人気のスポットです。
この歌は1949年、作詞家の江間章子と作曲家の中田喜直により、NHKの番組『ラジオ歌謡』で放送するために作ら れました。尾瀬は福島県、群馬県、新潟県にまたがる日本最大の湿原地帯ですが、当時一般にはほとんど知られておらず、地質学者など以外は訪れる人もまれで した。ところがこの歌が世の中に広がるにつれ、この目でひと目見ようとハイカーが急増。尾瀬は一躍有名になったのです。
しかし、観光客が増えたことで、ゴミの放置や自然破壊の問題が発生。現在では、厳しい自動車の乗り入れ規制やゴミ持ち帰り運動などで、尾瀬の自然を守る活動が行われています。『夏の思い出』で歌われたような美しい自然を、いつまでも残していきたいものですね。

原画:根岸敬
[日本の歌7集「赤とんぼ」]
暑さがやわらぎ、少しずつ日が短くなる秋は、どことなくセンチメンタルな気分になる季節。思わず『赤とんぼ』のような郷愁を誘う歌を口ずさみたくなります。この歌の作詩をしたのは詩人の三木露風。作曲は、多くの名曲を残した作曲家の山田耕作が担当しました。
詩にはっきりと書かれているわけではないのに、どこかもの悲しさを感じさせる『赤とんぼ』の歌詞は、三木露風自身の幼少時の思い出がモチーフになっ ていると言われています。露風が幼少の頃、母親は家を出てしまい、父親は露風を祖父に預けました。そこに雇われていた手伝いの娘が、歌詞に出てくる15歳 で嫁にいった「ねえや」だという解釈が一般的です。母を失った露風は、年若い「ねえや」におぶられ、いつも面倒を見てもらっていたのでしょう。赤とんぼを 見てふと思いだした、幼い頃のせつない気持ちがこの歌に込められているのかもしれません。

原画:谷内六郎
[日本の歌1集「夕やけこやけ」]

原画:堀文子
[日本の歌2集「もみじ」]

原画:石川滋彦
[日本の歌3集「冬げしき」]
冬の歌と言われて真っ先に思い浮かぶのは、どんな歌ですか? 10代、20代ならばポップスでしょうか。年輩の方なら、『冬げしき』のような唱歌が自然と頭に浮かぶかもしれません。
『冬げしき』は、1913年に刊行された『尋常小学唱歌 第五学年用』で発表された歌で、作詩者、作曲者不明のまま歌い継がれてきました。ご存じな いという方のために少し歌詞をご紹介しましょう。一番の歌詞は、「さ霧(ぎり)消ゆる湊江(みなとえ)の/舟に白し、朝の霜。/ただ水鳥の声はして/いま だ覚(さ)めず、岸の家。」。湊江とは「港のある入江」のことで、水辺の朝の情景を歌っています。
このような格調高い文語体の詩は、現代の子どもには少々理解しにくいかもしれません。ただ、昔の子どもたちも、必ずしも歌詞を理解して歌っていたわけではないはず。

原画:滝平二郎
[日本の歌1集「荒城の月」]
『冬げしき』の歌詞は六五調で構成されていて、とてもリズミカルなのが特徴。意味がわからなくても、歌っているうちに自然と頭に残ります。昔覚えた歌を大人になって思い返したとき、はじめて詩のもつ深みや言葉の響きの美しさに気づく人が多いのではないでしょうか。

原画:安野光雅
[日本の歌4集「春の小川」]
「春の小川はさらさら行くよ」ではじまる『春の小川』。このなかで歌われる「えびやめだかや小ぶなのむれ」が泳ぐような小川は、もはや都会では見ら れなくなりました。ところがこの歌のモデルとなったのは、作詩家の高野辰之が当時住んでいた、代々木山谷(現在の渋谷区代々木5丁目あたり)を流れていた 河骨川。かつての清流は、いまや下水道幹線として暗渠化されています。現在の渋谷区と言えば、人ゴミで溢れる大都会。『春の小川』のような美しい自然が広 がっていたなんて、驚きですね。
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