趣味・教養

2012.02.15
1964年にニューヨークで生まれたレニー・クラヴィッツの母親は、バハマ出身のアフリカン・アメリカンで、父親はウクライナ系ユダヤ人。つまり彼自身は白人と黒人の両方の血を引く混血である。そしてそんな出自とシンクロするかのように、彼の音楽を巡る評価は、特に80年代末期のデビュー直後は「これはブラック・ミュージックなのか、それともロックなのか?」という二分法の狭間で、特に放送局などから敬遠されて来たという経緯がある。
そんな彼が昨年リリースしたアルバムのタイトルは、『ブラック・アンド・ホワイト・アメリカ』。これは初のアフリカ系の大統領としてオバマが就任した2009年以降のアメリカの変化に照らしてみれば、実にタイミングの良いものとしても受けとめられるが、作品の背景を良く見ていくと、それ以上にレニーが自分のアイデンティティを表現の核として制作した作品である。
今回彼がレコーディングの場所に選んだのは、母親の故郷にあたるバハマ。そしてこのアルバムの幕開けを飾るタイトル・ナンバーでは、1950~60年代の公民権運動の指導者であったマーティン・ルーサー・キングの名前が出て来る。こうした要素に注目しながら作品を受けとめていくと、歌詞の内容は決して挑発的ではないが、彼自身が育ってくる中での経験と、アメリカという国が歴史的にはらんできた人種差別という問題を重ねあわせた意欲的な作品であることが分かるのだ。
正式な収録曲は16曲とボリュームもあるが、楽曲のスタイルもロック、ソウルからヒップホップまで、実にバリエーションに富んでおり、音楽の質感自体が、人種や音楽のジャンルといったこだわりを越えることを促しているかのようだ。彼自身のキャリアにおいても、重要な意味合いを持つに違いない作品であるだけに、本作を携えた来日公演も、充実したステージとなるに違いない。