食・グルメ

2010.02.08
どこからか聞こえてくるチャルメラの音に、思わず耳をそばだて、心がそわそわと浮き立つ...そんな「屋台ラーメン」の思い出が、ラーメン好きならば一度はあるのではないでしょうか。暗い夜道に、灯台のように輝く提灯と、漂うスープの香り。のれんをくぐれば、温かい湯気がふわっと流れ、冷えた体を迎えてくれる...屋台で食べるラーメンは、その雰囲気も含めて「特別」な味わいをもたらすもの。今回はそんな「屋台ラーメン」のアレコレについて、ご紹介しましょう。
屋台ラーメンと聞くと、どこか哀愁漂う、あのチャルメラの音色を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。一昔前に比べると大分少なくなったものの、今でも「♪ドレミーレド、ドレミレドレー」というメロディーは、心を和ませてくれる存在です。
あの独特の音色を生み出すチャルメラという木管楽器は、西アジアで生まれた"ズルナ"という楽器が中国に伝わって"スオナー"という楽器になり、さらにその"スオナー"が日本へ伝わって変化したものと考えられています。ちなみに"ズルナ"がフランスに伝わってできた楽器は、オーケストラなどでおなじみの"オーボエ"。つまり、世界的にもメジャーな"オーボエ"と"チャルメラ"は、親戚のような関係にあるといえるのです。それを知ると、屋台で聞こえてくるチャルメラの音色が、よりいっそう魅力的に聴こえてくるような気がしてきますね。
さて、そのチャルメラの音をシンボルとした屋台ラーメンは、江戸時代の「夜鳴きそば」が起源であるという説が有力です。夜の街を流す「夜鳴きそば」は、参勤交代の武士やその奉公人、または出稼ぎ人や単身者などがひしめく江戸において、大いに親しまれる存在だったのです。江戸前寿司のルーツが、立ち食いできる握り寿司だったように、江戸の町ではとにかく手軽に早く食べられる料理が大人気。繁華街には数々の屋台が存在していたと伝えられています。古きよき時代の名残を残す屋台ラーメンだからこそ、それがたとえ都会の街中に佇んでいたとしても、どこか懐かしい気分にひたれるのかもしれません。
冬の寒い夜に食べる屋台ラーメンは、店主との何気ない会話のやりとりだったり、身体全体が芯からじんわり温まるようなその感覚も楽しみ。それがあるから、普通の店よりもひと味もふた味も美味しく感じられるといっても過言ではないでしょう。店によっては、その場に自分のどんぶりを持って行って食べるというようなルールを持つところもあるようです。お店のしきたりにならってラーメンをいただいてみるというのも、楽しい体験かもしれませんね。
屋台ラーメンの多くは移動式の店舗です。現在では場所の問題や法規制などで見かけることも少なくなってきていますが、一方で、屋台ラーメンを守ろう、その雰囲気を確実に楽しめる場を提供しよう、と奮起しているところもあります。たとえば、福岡県は博多の中洲名物屋台ラーメンや、近年地元密着型のご当地グルメとして売り出し中の福井県・敦賀ラーメン、青森県は八戸市の屋台村のラーメンなどです。
福岡は博多の中洲エリアは、ラーメンはもちろん、天ぷらやおでん、焼き物などの屋台がひしめく有名な繁華街。終戦直後の荒廃した町に、簡素な移動式屋台の飲食店が集まったことがその発展の原点とされています。ネオンが灯り、屋台が連なる、その賑やかかつノスタルジックな雰囲気は、ほかの地域ではなかなか見られない光景。そんな中で食べる屋台のラーメンは、地元客はもとより観光客にも大人気で、行列ができる店も少なくありません。ラーメン好きなら、一度は訪れてみたい場所といえるでしょう。
福井県敦賀市の敦賀ラーメンも、その歴史は古く、1950年代頃には屋台のラーメン店があったと伝えられています。当時は、深夜営業の店舗などは当然なかったと思われますが、深夜にチャルメラを鳴らしながら現れる屋台ラーメンは、地元の人で大いに賑わったそう。きっと、胃袋を満たすだけでなく、ホッと一息つける場所を提供していたに違いありません。現在でも、敦賀駅近くの国道8号線には夜になると屋台が現れ、地元客や観光客の胃袋と心を満たしてくれているようです。
一方、青森県八戸市は、"古さ"ではなく、"新しさ"に着眼点を置いた"八戸屋台村 みろく横丁"を平成14年にオープン。町ぐるみで地域を盛り上げよう、活性化させようという思いが込められているだけでなく、エコロジーやバリアフリーなども考慮した先進的な取り組みですが、見た感じは「屋台」のあのどこか懐かしい雰囲気がしっかりと演出されています。お酒を飲みながら、何軒かハシゴするという楽しみ方もできて、ゆっくりと遊べそうな横丁となっています。
この他にも、全国では今でも静かに営業を続けている屋台ラーメンがいくつもあります。旅がてら、または夜道でチャルメラを耳にしたら、ふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。店主や地元の人と他愛ない話をしながら、温かなラーメンをすする幸せ。そんな風情ある夜のひとときを、たっぷりと味わってみてください。
« 前の記事へ