年金・保険・法律の専門家コラム

身近なお金の安心計画

年金・税金・保険など、だれもが気になる「身近なお金」について社会保険労務士の先生が分かりやすく解説します。

2012.01.05

年金の繰り下げ手続きについて

あけましておめでとうございます。社会保険労務士の土屋です。今回は年金の繰り下げについてお話しいたします。

現在の法律(高年齢者雇用安定法)では、企業が定年を定める場合には60歳以上にすることとされています。さらに、企業には65歳までの雇用確保措置が義務づけられています。
一方、厚生年金の支給開始年齢は徐々に引き上げられ、昭和28年4月1日以前生まれの男性および昭和33年4月1日以前生まれの女性の方は60歳から受給できる年金は報酬比例部分(給与比例部分)のみで、定額部分(基礎年金相当分)が受給できるのは、あくまで65歳からです。希望すれば、60歳から請求して受給することもできますが、その場合ペナルティーとして減額支給されることは前回(2011.10.05掲載分)お話した通りです。

超高齢化社会で私たちの平均寿命は急速に延びています。リタイア後の生活期間は20年以上という長期間になります。当然、年金だけでは定年前の生活は維持できません。それならば、健康に自信があって自分のキャリアや能力に見合った適当な職場があるならば、働けるうちは働きたいという考えを多くの方が持つことと思います。
60歳以降は年金も受給できるし、リタイアしたら旅行や趣味に没頭したい。一昔前であればそんなことを考えるのが一般的でしたが、昨今はそのような考えを持つ方は少数のようです。法律の後押しがあるとはいえ、多くの方が勤務延長や継続雇用または再就職等で年金を受けながら働くという選択肢を選んでいるのではないかと思います。
そのせいかわかりませんが、60歳になっても「どうせ働いているのだからもらえない」とか、「今もらわないで会社を退職した時に請求してもらった方が、年金額が増える」と誤解して、年金の請求手続きをしない方が多いように見受けられます。
昭和28年4月1日以前生まれの男性および昭和33年4月1日以前生まれの女性の方で、厚生年金または共済年金に加入した期間が1年以上あれば、60歳から年金を受給することができますが、これは特別支給の老齢厚生年金といって、60歳時点で請求をしないでいても別段年金額が増えるわけではありません。60歳で請求をしないまま65歳に到達してしまうと、5年経過した分は時効にかかり年金をもらえなくなります(つまり、請求時点から5年間しか遡ることができません)。
受給権があるにもかかわらず、一定期間以上年金受給をしないで将来の年金額を増額させることができるのは、65歳から受給できる老齢基礎年金と老齢厚生年金です。
なお、現在のシステムでは資格期間が25年以上ありかつ厚生年金または共済年金の加入期間が1年以上ある人が60歳になる3ケ月程前に年金請求書が日本年金機構から送付(※)されてきますから、必要な書類をそろえ、原則として最終勤務先を管轄する年金事務所か、すでに退職している方は住所地の年金事務所に提出するだけですので、忘れずに届出をしていただければと思います。
※国民年金にしか加入したことがない人は、65歳の誕生月(1日生まれ除く)の3ケ月前に送付されます。

年金の繰り下げについて

年金繰り下げ請求の手続き

年金の繰り下げ請求の手続きは、

  1. 老齢厚生年金
  2. 老齢基礎年金(国民年金)

の両方とも、またはいずれか一方のみ繰り下げ請求ができます。
以下、詳しく説明します。

年金の繰り下げの手続きは、資格期間が25年以上ありかつ厚生年金または共済年金の加入期間が1年以上の60歳から受給権のある人については、65歳になる月に送付される葉書形式の裁定請求書で手続きします。60歳から65歳まで受給した特別支給の老齢厚生年金と65歳から受給する老齢基礎年金と老齢厚生年金は別物ですので、再度年金の裁定請求手続きを行うのですが、60歳時に必要な書類等を提出していただいていますので、必要事項を記載した葉書を提出するという簡易な方法で請求手続きを完了させています。
したがって、60歳時点で手続きをしていない人は、必要な書類をそろえて請求手続きを行わなければなりません。
具体的な手続きですが、65歳以降もそのまま年金を受給したいと思う方は、自分の名前や住所等必要事項を葉書に記載して郵便ポストに投函するだけで、手続きは完了です。もし、66歳まで(最大66歳以降70歳まで可能)年金をもらわずに年金を増やしたいと思うならば、この葉書を出さなければ、年金は支給されません。そうして、1年経過後の66歳以降に年金事務所に行き支給開始の手続きを行えば、増額された年金を受給することができます。66歳以降は1ケ月経過する毎に0.7%ずつ年金は増額されます。増額は最大70歳まで受給しないで増やすことができます(70歳時点で65歳受給額の42%増額)。
繰り下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方とも、またはどちらか一方のみ繰り下げすることもできます。どちらか一方を繰り下げしたい場合には、繰り下げしたい方の年金に○をつけて葉書形式の裁定請求書を投函すればOKです。

【計算例】
  • 65歳から受給する老齢厚生年金額1,800,000円を68歳まで繰り下げした場合
    1,800,000円×(0.7%×36ケ月)=2,253,600円
    (65歳時の25.2%増額)
  • 65歳から受給する老齢基礎年788,900円(平成23年度満額)を70歳まで繰り下げした場合
    788,900円×(0.7%×60ケ月)=1,120,238円
    (65歳時の331,338円増額)

年金額はあくまで現時点での事例です。年金は加入期間や賃金額によって変わります。

65歳以降も在職している人の場合の繰り下げ手続き

65歳以降も在職(厚生年金に加入)している人の場合は、老齢基礎年金は全額支給されますが、老齢厚生年金は支給調整される場合があります。具体的に総報酬月額相当額(毎月の給料+前1年間に支給された賞与の合計額÷12)と、年金月額の合計額が46万円を超えた場合、超えた分の2分1が支給停止されます。この方が繰り下げ受給した場合、支給停止される年金額については、そもそも支給されませんので繰り下げ対象にはなりません。支給停止されずに支給される年金額があれば、その部分だけが繰り下げ対象の年金額として増額されることになります。

65歳以上の在職老年齢金対象者の繰り下げ受給

年金繰り下げ手続きの注意点

厚生年金を受給できる人は、繰り下げという選択をして自分の年金を増額させることができます。ただし、繰り下げすることにもデメリットがあります。年金を繰り下げている間は当然無年金になります。66歳前であれば繰り下げをやめて遡って手続きすることも可能ですが、もし繰り下げ後の年金を受給後すぐ不幸にして亡くなってしまえば、繰り下げしていた間の年金をもらえるわけではありません。重篤な病気の方は別にして、自分の寿命は自分にはわかりません。
また、70歳まで最大繰り下げ可能ですが、70歳になったからといって自動的に年金支給が開始されるわけではありません。必ず年金事務所に行き、請求の手続きを行う必要があります。70歳の誕生月が経過し、手続きが遅れてしまうと、場合によっては経過した月分の年金が受給できないということになります。年金の繰り下げも十分考えて手続きする必要があります。

他の年金との関係について

65歳時の請求をしないで繰り下げして1年経過後に年金請求する場合には、請求した翌月分から増額された年金が受給できます。もし、繰り下げした人が他の年金(遺族年金・障害厚生年金等)の受給権を得た場合にはその月に繰り下げした年金の請求があったこととして、翌月から繰り下げした年金も受給することになります(増額は他の年金の受給権が発生した月までで計算される。支給は請求があった月の翌月から)。
したがって、遺族年金や障害厚生年金の受給者の方は65歳以降に老齢厚生年金の繰り下げ手続きをすることはできません(障害基礎年金受給者は繰り下げ可能)。
また、繰り下げした人が請求手続きをしないまま亡くなった場合(65歳時の手続きをしないまま繰り下げ後1年経過する前は除く)には生計維持のある妻等該当する遺族の方が亡くなった月に遺族年金の請求手続きをしていただくことになります。
遡って老齢年金の支給はされません(ただし、昭和12年4月1日以前生まれで、平成14年3月31日時点で老齢厚生年金の受給権者は除く)。

在職老齢年金の改正について

前回もお話ししましたが、昭和28年4月2日以降生まれの男性および昭和33年4月2日以降生まれの女性の方からは、資格期間が25年以上ありかつ厚生年金または共済年金の加入期間が1年以上あっても、年金がもらえるのは61歳以降になります。国としては60歳から65歳の間の無年金になる期間については、65歳までの雇用の完全義務化によって対応しようとしています。現在は労使で協定を締結し基準を定めることにより、継続雇用する労働者を選別していますが、こうした措置が認められなくなることで企業負担がますます増え、若年者の就労にも多大な影響を与えることになります。
厚生年金の65歳支給開始年齢引き上げについては平成16年に決まったことで、そもそも基礎年金導入時から議論されてきたことです。国の対応があまりにも遅いといわざるをえません。一部で議論された在職老齢年金の支給調整の改正(支給調整開始額28万から46万円への引き上げや廃止)についても結果的に次期国会では法案として上程されないようです。一方では、現在約600を切った厚生年金基金の財政状況の問題もあります。厚生年金基金の3分1程が財政上非常に厳しい状況にあり、給付減額を実施するか、掛け金引き上げを行うか、さもなくば解散を迫られている状況にあります。筆者もそういう受給者の方から相談を受けたことがあります。
必要に応じて私達の負担が増えるということも受け入れざるをえないとは思いますが、すみやかに議論し対応をしていかなければ、私達の子や孫の世代への負担を増やすだけになると思いますが、皆様はいかがお考えでしょうか?

社会保険労務士
土屋 広和 さいたま総合研究所人事研究会 所属
<<前の記事 次の記事>>

その他の「年金・保険・法律の専門家コラム」